熱可塑性樹脂による塗料

①合成樹脂エマルションペイント

建築で塗装される部位において、最も多い壁面であるがこれに使用される塗料は合成樹脂エマルションペイントによって代表される。
建築用塗料の中では最もポピュラーな塗料であり、その特性は十分理解されており、細部にわたる説明は避けるが、品質等に対する重要なポイントを説明する。

合成樹脂エマルションペイントは、水に分散している樹脂粒子がいかに正常な塗膜を形成し、性能を発揮できるかにかかっている。
多くの組成物によって形成されているところが他の溶剤型塗料と異なる点である。

最近の外装用の塗料、吹付け材、ローラー塗材などはほとんどが、合成樹脂エマルションペイントの品質設計技術を延長し応用開発したものである。
合成樹脂エマルションペイントでは、JISK5663によって、1種外部用2種内部用の一般膜厚の塗膜が、またJISK5668においては合成樹脂エマルション模様塗料の1種外部用2種内部用、3種天井用として各種の模様を形成する塗料が品質の標準化を目的に規絡されている。
また、従来よりアグリル系が高級で、酢酸ビニル系が普及品と考えられていたが、最近は、アクリル系といっても100%アクリル共重合体を使用した塗料はほとんど市販されておらず、いわゆる、アグリルと酢酸ビニルの共重合体であって、その内容によってはアグリル系というより、酢酸ピニルーアグリル共重合体といったほうがよいほど、酢酸ピニルの含有量が高くても優秀な性能を発揮する塗料が市販されている。
ゆえに、合成樹脂エマルションペイントの品質を選択する場合には、JIS規格によって分類されている使用部位別に外部用、内部用によって選択する必要がある。

最近、性能はJISにおける1種であるが仕上がり性が奇麗な点を要求する内部用に向けて設計した内外部用という品質の材料が市販されているが、高度なきびしい条件を要求される外部への使用は避けるべきである。
一般に、これら汎用的な塗料は経済面が先行した品質がグレード化されている場合があるため注意が必要である。

②有光沢合成樹脂エマルションペイント

合成樹脂エマルションペイントは従来よりその造膜機構からも、樹脂自体が2次転位点の低い、すなわち軟質のものが良好とされている点から、形成した塗膜に柔軟な粘着性が残り、よごれやすくなることを防止する意味においても、顔料分の多い配合による品質設計がなされていた。
ゆえに、形成する塗膜はつや消しの仕上がりとなり、有光沢の塗膜の研究開発が強く望まれていた。
特に、溶剤型のピニル樹脂系およびアグリル樹脂系塗料における溶剤に起因する毒性とか省エネルギーの点からも、いわゆる無公害性で省資源型塗料の開発が求められ、有光沢合成樹脂エマルションペイントの出現をみたのである。
有光沢合成樹脂エマルションペイントは、硬質のモノマーを用いて合成された合成樹脂エマルションであり、塗膜が理想的に連続した塗膜であれば、硬質であることで耐水、耐アルカリ等の性能は一般の合成樹脂エマルションペイントよりすぐれ、また、溶剤型のアクリル、ピニル系塗料用樹脂に比較し、重合度が高く、耐候性についてもすぐれた性能を発揮できる性質をもっている。

そこで、硬質の合成樹脂を用いているエマルションの造膜を良好にするため、種々の技術が導入された品質設計がなされ、良好な塗膜を形成するまでに進んでいる。
たとえば、造膜するまでの間、硬質の樹脂に少量の高沸点の親水性の溶剤(高級アルコール類など)を少量添加し、軟質化し、造膜をスムースにさせ、造膜後これら溶剤が蒸発するまでの時聞は塗膜に多少の粘着性は残るが、蒸発後正常な塗膜となる。
このような技術を導入して設計された塗料の代表例として、住宅・都市整備公団によって、塗料メーカーの協力のもとに確立したGPペイントシステムがあげられるが、この塗料を中心に他の同系の塗料と組成函、性能面で比較すると表2-20のごとくなる。
有光沢合成樹脂エマルションペイントの用途としては、従来、溶剤型のピニルおよびアグリル樹脂塗料が使用されていた外壁、浴室、台所などの壁面、天井などで用いられ、特に外壁画については、各種の複層吹付け材や無機質スタッコ吹付け材の上塗りとなる仕上材として多用化している。

しかし、これら有光沢合成樹脂エマルションペイントも種類が多くその選択に十分に注意が必要で、特にJISによる標準化がなされておらず、現在検討中であるが、やはりその品質が確認できているGPペイントシリーズの活用が良好な結果をもたらすと思われる。
有光沢合成樹脂エマルションペイントは水系塗料の中で分類されているものであり、金属系の水系塗料の分類で示したごとしその種類の中でも、耐アルカリ性を要求されるこれら無機質系の下地に対しては、水溶性の樹脂で’なくエマルション系のものでなければ、耐アルカリ性は望まれない。

③塩化ビニル樹脂塗料

無機質系下地に容易に塗装することが可能になったのは、昭和20年代の末に、塩化ピニル樹脂の塗料が可能になってからであり、建築用塗料(特に壁面用として)の第1歩と言える。
塩化ピニル単独の重合体(ポリマー)は耐薬品性と硬度などにすぐれているが、溶剤に溶けにくしまた塗膜となった場合の付着性が不良であるため、酢酸ピニルと共重合させ可溶性と付着性を向上させたものがほとんどである。

塩化ピエルと酢ピニルとの共重合の割合は前者が50~70、後者が50~30のものがあり、あまり酢酸ピニルの割合を多くすると耐薬品性、耐水性等が不良となるため、一般には、70:30の割合が標準とされている。
塩化ピニル樹脂塗料の種類はJlSK5582にその品質とともに規定されているが、一般にはあまりその内容で普及されていないため、その内容を十分に確認し塗料種別を選択すべきである。
すなわち、塩化ピニル樹脂塗料は揮発乾燥型の塗膜で化学反応によって乾燥硬化する塗膜ではないため、一般に塗膜厚さが薄いので、それぞれの目的に応じた品種を選択しないと目的の性能を発揮しない結果となってしまう。
JISで定められている品種は1種は、主として屋内のコンクリート、モルタル、スレートなどの吸収性の素地に用いるものとしてあり、規格における樹脂中の塩素の含有量は低いが、膜厚に塗膜が形成できるように加熱残分(%)を一番多く規定しである。

2種は金属、木部などの比較的非吸収性の面に用いるものであり、3種は耐薬品性用として品質設計がなされており、樹脂中の塩素の含有量を一番多くしてあり、塗料中の塩化ピニルの含有量が多く、耐薬品性を向上させるようにしである。
しかし最近では、耐薬品性を求める場所への塗装は、厚膜で耐薬品性のすぐれた2液型のエポキシ樹脂塗料か、純塩化ゴム系塗料の利用が多くなっている。
また、塩化ピニル樹脂塗料に用いられている溶剤が毒性の問題等により、室内等での施工に用いられるのが避けられていく傾向にある。

一方、塩化ピニル樹脂塗料によるつや消し型は他の溶剤型の塗料に比較し、耐候性がすぐれており、外部のつや消し仕上げを求める神社、仏閣等には多く用いられている。
溶剤型塗料ははけ、ローラーなどで施工する場合に特に外部において、パプリング(発泡)を生じやすいが、塩化ピニル樹脂の場合は酢酸ピニル樹脂の含有量が比較的少ない関係から、生じにくく、外壁などの塗替え塗装に用いられる。

④アクリル樹脂エナメル

アグリル樹脂を展色剤とした塗料はアグリル樹脂の特性を十分に応用し、非常に多くの種類が開発されているが、ここで示すコンクリート、モルタルなど耐アルカリ性を要求されるアグリル樹脂エナメルとは、主に揮発乾燥型の塗膜を形成するものをさしている。
これらコンクリート等のアルカリ性素地に塗装するように品質設計された塗料の品質の標準化に対するJISの制定はごく最近であり、JISK5654-79によって定められている。
この場合の樹脂は熱可塑性型であり、しかし、ニトロセルローズで変性されたアグリルラッカーとは異なり、アグリル酸、メタアクリル酸およびこれらのエステル等の相互の共重合体か、酢酸ビニルなどの他の単量体(モノマー)との共重合体よりなっている。
一般には、酢酸ピニノレとメタアグリル酸エステルとの共重合体の樹脂を展色材にしたタイプが多く市販されている。

アクリル樹脂エナメルはその塗膜性能において、特に光に対する性質が良好で、耐光性にすぐれ、樹脂自体が無色透明であることがこれにプラスされ、あざやかな色を顔料本来の色調で与え、保色性がよく、変退色の少ない塗料として、外壁面の吹付け材の仕上用塗料をはじめ、多くの用途に使用されている。
アグリル樹脂エナメルの選択に当たっては、この塗料の樹脂組成が複雑に共重合されており、純アグリル共重合体と他の樹脂との共重合体が同一のJlS規格内で評価されているので、たとえば、酢酸ピニルとの共重合体はすぐれた性能をもち、他の樹脂系より膜厚も厚くなり、悪臭も少なく、マイルドな性質をもっているが、Ii’F酸ピニルの含有量によって、耐水性、耐アルカリ性が低下する傾向がある。

⑤弾性塗料

塗膜は一般にある程度の弾性を有するものであるが、塗膜の物理的な性質の中において、特に弾性を強調し、それを膜厚によって高めていく塗料として、最近は、ゴム状弾性吹付け材とか仕上材とかによって多用化しつつある塗料がある。これらの種類の中で1コート型とか単層型といわれるものについては、塗料としてこの場で説明を加える。

コンクリート壁体は本来は吸水性物質によって形成されているものでありながら、ある厚みをもつことで防水能力を有するものとして、建築空聞を形成する重要な素材として多用化されている。
しかし、最近の建築工法の変化によって、コンクリートのひび割れの多発による防水上の問題、中性化の問題が表面化し、屋上のみならず、塗料、吹付け材など、塗装材料による仕上部門における外壁面において、そのひび割れに起因する問題点に対応すべく材料の開発へニーズが生じて、多種類の材料が開発されている。

ゴム状弾性仕上材における種類は多くあるが、複層型と単層型に分けられる。比較的硬い部類のアクリル樹脂、アグリルゴム等のエマルションを多量に配合し、P.V.C%を下げることによって、ゴム状弾性を発揮させ、有光沢合成樹脂エマルションペイントと同様な造膜システムによって、形成塗膜は粘着性が残らず、弾性を発揮するように設計されたものである。
塗膜の性能は、一般塗料における塗膜に求められる性能のほかに、ゴム状弾性としての特性が求められる。

しかし、これらゴム状弾性重料は薄い膜厚では、十分に弾性を発揮できるものでなく、所定の膜厚を塗装する必要がある。
これら塗料は最も新しい塗料として開発されているものの1つであり、技術的にも、未解決、不明な点が多いため、事前に、品質、仕様、工法等を十分に調査の上選択する必要がある。
特に、ゴム状弾性の性質が初期の溶剤残留時と、経時後とは大きく変化するものがあり、初期は弾性があるが比較的短時間において、一般塗膜と変わらない状態になってしまうものもある。